Music Diary
[ 2001.12.27 ]
パット・メセニー・G 『イマジナリー・デイ・ライヴ』(2)
さて、ここからは映画音楽のお話。
パット・メセニーが映画音楽を担当した「マップ・オブ・ザ・ワールド」の試写を見た。
パットが「マップ・オブ・ザ・ワールド」のサウンドトラックを完成させた99年のことなのだけれど、日本で公開されるかしらと気をもむ私に、彼はこの映画のことを次のように語った。パットはいつものジーンズ姿で、映画音楽の録音中は時間がタイトで髪をとかす時間もなかったと言ったが、そのライオン・ヘアはその後もとかされた形跡がなかった。
「いい映画なんだ。重いけれど、心に灯りがともるような。スコット・ハミルトンの原作が、まず素晴らしい。ぼくの音楽が好きだからと、若くて優秀な監督、スコット・エリオットから映画音楽の依頼があったとき、ぼくの故郷の近くであるウィスコンシン州が舞台になっていることを知って、興味をそそられた。そして原作を読み、感動を胸にメロディの主題となる『世界地図』を書き始め、映画の最初のラフ・カットを見終えてすぐに完成した。それはまるで物語が音楽を生み出していくようで、ぼくはただこの特別な場所で繰り広げられる人生の旅を、音に移し換えていけばよかった。中西部独特の風景の、もうひとつの背景でありたいと願い、アコースティック・ギターを中心にすえた。そこに室内楽団によって陰影をつけ、ベースはメセニー・グループのベーシスト、スティーヴ・ロドビーに、オルガンをギル・ゴールドスタイン、パーカッションを元スパイロ・ジャイラのデイヴ・サミュエルズに委ねた。『マップ・オブ・ザ・ワールド』ほど、登場人物が細部にわたってていねいに描かれている深いストーリーに出逢ったことはない。サウンドトラックだけじゃなくて、映画もぜひ見るべきだよ」
それがとうとう実現するのだから、嬉しさもひとしおで、パットにメールを打った。そのメールには、試写を見て、パットの言わんとしていたことが、やっとよく解かったと書いた。
パット・メセニーは、1954年8月にミズーリ州カンサス・シティに生まれた。ギターを初めて手にしたのが13歳と決して早くはないのに、マイアミ大学に進 んだ19歳のときには、もう同大学やバークリー音楽大学で教鞭をとっていたというのだから驚きだ。同じ19歳のとき、ゲイリー・バートンのグループに迎えられプロ・デビューを果たして以来、パット・メセニー・グループでの四半世紀にわたる活動と、オーネット・コールマンやハービー・ハンコックといったジャズ界の大御所との共演で、コアなジャズ・ファンから現代音楽、ロック・ファンまでをも巻き込んで多くの人々の心をとらえてきた。
パット・メセニーの音楽性はというと、その編成や共演相手次第でかなり多面的なのだが、それは表層のこと。メセニー・グループで聴かせるコンテンポラリーなサウンドでも、4ビートのジャズでも、パットのギターは常に聴き手の心の琴線にふれ、揺さぶらずにはおかないのだ。そのギターの繊細な弦の震えに、かく言う私も自分でも忘れていた記憶を思い出すことがある。
また、これは曲想のことになるのだけれど、この映画音楽のようにアメリカの中西部の風景を音楽で描かせたら、パット・メセニーの右に出る者はいない。メセニー・グループで録音したいくつかのナンバー、それにベーシストのチャーリー・ヘイデンとのデュオでグラミー賞をとった「ミズーリの空高く」といったアルバムが、その証左だ。 頭脳明晰、弁舌爽やかなパットが、「中西部の風景」を語るときだけは、遠くを見る視線になる。
「アメリカというと、人はどんな風景を思い描くのだろう。ぼくにとってのそれは、一つ二つ雲を浮かべて大きく広がる青い空であり、どこまでも続く田園風景であったりする。決して都会は思い浮かばない。それに海の景色にも無縁だ。ぼくのそれは、まさしく中西部の風景なんだ」
中西部の風景は、パットの原風景なのだった。
その風景とデュエットするように奏されるこの映画でのパットのギターは、切なく、ときに強い。
タイトル・ロールでの明るいパットのギターは、ウィスコンシンの酪農場によく似合い、アリスが捜し物をしているときに見つける、「マップ・オブ・ザ・ワールド」に重ねられる思い出に耽るようなギターには静謐さがある。それに弦楽器がサスペンスに満ちた音を加え、それがクレッシェンドされていくとき、映画を見る者の鼓動も速くなるのだ。
田舎の一本道を行くアリスを伴奏する音楽も、1度目にとぼとぼと歩くときと終盤に車で通るときとでは、表情が変わる。
残された夫の寂しさが、隣にいる人のそれと近寄る夜、そのことは詳しく語られずに、朝の大きく広がる空とパットのギターと弦の調べが、語られなかった物語を音楽にする。
そういえばベッドで一人天井を見つめる夫のシーンでも、ことばではない音楽という手段で、多くのことが語られていた。
この映画が私に教えてくれたことは、自分に正直に生きる、そのことの大切さだった。映像が、アメリカの家庭の散らかり具合を含めてありのままを見せ、ストーリーもすべての登場人物のありのままと真実を描いて進行していくなかにあって、そういう映画の作り方に、パットが大いに共感しただろうことは想像に難くない。
パット・メセニーは、70年代終わりから様々なドラマやバレエ、演劇の音楽を書いてきたが、今回のサウンドトラックとしてのリリースは「Under Fire」(ギル・ゴールドスミスの音楽にソロイストとして全面参加、84年)、「The Falcon and the Snowman」(84年)、「天国への道」(96年)に次ぐものとなった。
パットの世界地図に、今までで最も質の高いサウンドトラックがここに加わったことになる。
映画、ぜひ見て下さいね。軽い作品ではありませんが、心に温かなものが残ります。正直に当たればいつか問題は解決すると、きっとあなたも思うはずですから。
2001年最後のダイアリーも、読んで下さってありがとうございました。
私の書き初めは、1月2日になるでしょうか。「女たちのジャズ」にも取り組みたいけれど、本も読みたいし、1月2日にまたあるラグビーの早慶戦にもやっぱり行きたいと、今から楽しみな年末?お正月です。
どうか、あなたもご家族と(一人でも!)暖かく、笑いに充ちたお正月をお過ごしください。及ばずながら、あなたが夢をかなえていけるよう、1年健やかに過ごされるよう、そして私たちがこの蒼い星をもうこれ以上傷つけることがないよう、戦うことがないよう、私もあなたの祈りに加わりたいと思います。
1年、本当にありがとうございました。心から感謝しています。

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映画 『マップ・オブ・ザ・ワールド』より
CAST:シガニー・ウィーバー、ジュリアン・ムーア、クロエ・セヴィニー他
2002年陽春 新宿武蔵野館3にてロードショー
共同配給:アートポート+アースライズ
STORY:アメリカののんびりした田舎町に住むひとりの平凡な主婦アリスは、ある日、目を離したすきに、親友の娘を不慮の事故で死なせてしまう。良心の呵責に悩まされる一方、世間の偏見という制裁を受け、さらに、でっちあげられた幼児虐待の罪まで着せられてしまう。人はいかに簡単に人生の落とし穴に落ち、そして、いかに新しい人生を歩み出すことができるのか。ひとりの女性の再生と成長の物語を通して、人生の深さ、家族や友人の愛の大切さを描く。







