Music Diary
[ 2004.09.01 ]
Verveの名作、SACDで登場
6月初旬、NYのユニバーサル内にあるマスタリング・スタジオをのぞいた。そう、アンディ・ウイリアムスにミズーリ州でインタビューした後、NYに飛んだのだ。
どうしてもこの時期にユニバーサルのスタジオに行きたかったのは、不朽の名盤『ゲッツ/ジルベルト』のマスター・テープを聴かせてくれると、スーパー・エンジニア、オノ・セイゲンが約束してくれたからだ。聞けばジャズの名門レーベル、Verveが60周年を記念して、年内に60タイトルをリリースするという。その中でも名盤の誉れ高い10タイトルを、オノ・セイゲンが1-bit/DSDリマスタリングし、至高のアコースティック・サウンドを作るというのだ。
スタジオで作業中だったのは、オスカー・ピーターソンの『プリーズ・リクエスト』だった。ニュージャージー州にあるテープ倉庫に厳重に保管されていたオリジナル・マスターテープを、まず1 bit /DSDでデジタル・トランスファーしていくのだ。
セイゲン氏、音量をかなり低めに抑えて作業を進めている。なぜそうするかと聞くと「スピーカーに左右されないようにね」と言うのだから、スーパー・プロはちょっと違う。 セイゲン氏が帰国後に、自身のスタジオであるサイデラ・マスタリングでリマスタリングした音を聴いたときは、真夏なのにクリスマス・プレゼントを開けたら欲しかったものがそこにあったような嬉しさを感じた。
こんなにアライヴな音に生まれ変わるものなのか。スタン・ゲッツのテナー・サックスが、耳元で甘い吐息を吹きかけ、ジョアン・ジルベルトの声が秘めていた微妙な感情の機微まで聴き取ることができる。佳い音は、感覚系を揺さぶり、快感を呼び起こすのね。
そして、その10枚の名盤が更にSACDになると聞き、セイゲン氏のサイデラ・マスタリングに行き、聴かせて!とせがんだ。 その音の、素晴らしかったこと。別世界だった。例えば私のフェイヴァリットのひとつである『エラ・アンド・ルイ』では、エラとルイの立ち位置まで見えた。セイゲン氏の補足によれば、2人は1本のマイクを分け合って歌っているのだそうで、謙虚な性格だったエラが控え気味に少し後ろに立っている。ルイのパートが終わると、エラの背中にそっと手を当て彼女をマイクの方に押し出し(多分ね)、エラが歌い始める。その彼女の歌声の粒子が、感じられるのだ。エラの高音に、ルイの低音の拡がり。バックでピアノを弾くピーターソンの、心憎いばかりの繊細な演奏。
普通のCDだったら"ながら聴き"ができるけれど、彼が手がけたSACDの場合、ただ聴くことに集中するしかなかった。
「これだとコンパクト・ディスクが複製芸術とは、もう言えないでしょう? 音楽の素晴らしさがダイレクトに伝わってくるから、楽器を始めようと思う若い人も増えると思うし、ずっと音楽から離れている人も、これなら聴く。商業的な効果を超えて、教育的な効果も絶大だと思う」
セイゲン氏のことばに、私も同意した。
Verveの名盤が、より立体的になって、音が生まれた現場に聴き手を連れ戻す。あぁ、やっぱり、SACDプレイヤーを買うしかないかしら。
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▲NYのスタジオで『ゲッツ/ジルベルト』のマスター・テープが聴けるとニッコニコ。
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ヴァーヴ誕生60周年
スープリーム・サウンド・エディション
DSD Remastered by オノ・セイゲン
ユニバーサル・ジャズ
2004/09/01発売
※SACD Hybrid盤(プラケース仕様)は09/29発売
『ゲッツ/ジルベルト』
スタン・ゲッツ&ジョアン・ジルベルト
UCCV-9151
サックスの巨人スタン・ゲッツが、ボサ・ノヴァの創造主ジョアン&アストラッド・ジルベルトらと共演した、64年グラミー賞受賞作。不朽の魅力を放つ名盤で、ボサ・ノヴァを聴きたいという人には必ず勧めている。
『プリーズ・リクエスト』
オスカー・ピーターソン・トリオ
UCCV-9152
有名なスタンダード曲やボサ・ノヴァを、リクエストに応えるように粋に演奏したこのアルバムは、ピーターソンのザ・トリオによるVerve最終作にしてベスト・セラーだ。
『エラ・アンド・ルイ』
エラ・フィッツジェラルド&ルイ・アームストロングUCCV-9159
ヴォーカルとトランペットの王様が、女王エラと仲むつまじくデュエットする心に染み入る一枚。私はお風呂に入りながらこの名作を聴くのが、疲れをとる特効薬。
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