Music Diary
[ 2002.02.27 ]
ティル・ブレナーのリラックス21Cソウル
先日のこと。一日だけプロモーションのために来日したパット・メセニーに、ティル・ブレナーの新作『ブルー・アイド・ソウル』を彼のメッセージ付きであげたら、わぁと声を上げて、とても喜んでくれた。
「会ったことはないけれど、あの美しい音色は、一度聴いたらちょっと忘れられない」とパットは言った。
あのトランペットの音色!ヴェルヴェットのなめらかな感触と、思索的なクールさをあわせもっていてステキよね!私たちは一瞬仕事そっちのけで、ティルを賛美しあった。その頃はベルリンの自宅に戻っていたティルは、その日はきっと盛大にくしゃみをしたことだろう。
でも、そのとき私がパットには言わなかったティルの魅力がある。女性なら誰でも気づくこと。ものすごいハンサムなのだ。長身で、その上にのった小さな顔は、今までのアルバムのジャケットのどの顔とも違って(一番近いのが新作を開けたときの中の写真だ)笑顔がひどくチャーミング。彼に笑いかけられたら、女なら誰でも一緒に笑う。しかも、である。これも特別といっていいくらい性格がいいのだ。
演奏、ルックス、性格、この3拍子がそろったティル・ブレナーは、きっと日本でもスター・ミュージシャンになるにちがいない。ヨーロッパでは既にそうだから、そんなこと、何の予言にもならないけれど。
彼のブレイクのきっかけになるだろうと私がかっているのが、新作『ブルー・アイド・ソウル』だ。ヨーロッパ系の人が元来アフリカ系の人々のものであるソウル・ミュージックを演奏するときに使われるその言葉。といっても、ティルの新作はいわゆるブルー・アイド・ソウルものより濃い内容と、クールな響きをもっていた。
ティル・ブレナーが、新作をこんな風に語った。
「この新作はケーキみたいなものなんだ。ケーキを焼くときを思い出してくれる? 材料は小麦粉、卵に仕上げに使うチョコレートに生クリームまで、異質な物ばかりなんだけれど、混ぜてこねて焼けば、美味しいケーキの出来上がり。このアルバムの場合もジャズとソウル、ヒップホップと様々なものが材料に使われているけれど、その素材同士が合う必要はないんだ。それをぼくの手でこね、ぼくのテイストで形にする。自宅のスタジオに丸9ヶ月こもって制作していたので、まるで今は子供を出産した気分なんだ」
30歳になったティルに子供がいても少しも変ではなかったが、独身の彼が使ったそのたとえについ笑ってしまった。
ティル・ブレナーは、この『ブルー・アイド・ソウル』をずっと温めてきたプロジェクトだと言い、一人のジャズ・ファンとしてリラックスして楽しく聴ける、コンテンポラリーなアルバムが欲しかったんだとも言った。
私の質問が今回のアルバムの鍵とも言える、大胆に導入されたターンテーブルによるサウンド・エフェクトに及ぶと、ティルの口調が熱をおびた。
「サモン・カワムラという、才能あふれる日系のDJがいてこそ作れるサウンドなんだ。サモンには、今作ではぼくと一緒にプロデュースもしてもらった。彼はぼくのグループのメンバーでもあって、ステージでは、それがストレート・アヘッドなジャズであってもターンテーブルで(即興演奏の)ソロを見事にやってのける腕前とアイデアの持ち主だ。たとえば2曲目の〈トラック・ワン〉で聴けるヴォイスは彼が作った物。これができる人って、少ないんだよね。それにすごいスウィング感をもっていて、テンポがゆっくりでもそのグルーヴを保てる貴重なミュージシャンだ。もちろんぼくにとっては、ターンテーブルも楽器のひとつなんだね」
ティルのオリジナルを中心に、まるで一編の映画のようにつながりをもって進んでいくこのアルバムで、ティルもまたプログラミングを担当し、ピアノを弾き、いつも以上のマルチ・プレイヤーぶりを発揮していた。
クレジットにはずっと活動を共にしてきたティモシー・レフェーヴル(b)の名が見られ、そこにヘンリー・ヘイ(org,kyd)、〈オスカー・セッド〉にデヴィッド・フリードマンのヴィブラフォン(彼もまた60年代にニューヨーク・フィルの楽団員でありながら、ルチアーノ・ベリオ、ウェイン・ショーターらとのジャズ活動をパラレルにやってのけたジャンル不問の演奏家。70年代後半からドイツ在住)が参加。ある曲はクラブ・シーンでカリスマティックな人気を誇るマーク・マーフィーが、お気に入りのティルのためならとヴォーカルをとった。
もちろん、ティルも歌っている(1曲だけれど)。それはマーク・マーフィーが歌詞を書いた〈タブ・オブ・ラヴ〉という曲で、2人で一緒にお風呂に入ったらあまりに幸せで結婚することにしちゃったという、ちょっとセクシーでハッピーで、ゆったり気分になれる曲だ。
さて、ここでティルの経歴をご紹介。
ティル・ブレナーは1971年ドイツに生まれ、9歳からトランペット習い始め、13歳のときから彼の受賞歴が始まるが、これは割愛。15歳のときには連邦ジャズ・オーケストラに最年少メンバーとして迎えられた。ケルン音楽大学ではトランペットを専攻した。アルバム・デビューは93年で、自分で大御所レイ・ブラウンに電話して、くどいて共演したのだった。今までにドイツ他EUでは7枚のアルバムを発表し、日本デビューはverve移籍作のバラード集『love』。続く前作『チャッティン・ウィズ・チェット』では、「歌えるトランペッター」として比較されて困ると語っていた50年代ウエスト・コースト・ジャズのスター、チェット・ベイカーのレパートリーを取りあげ、現代的なサウンドでかえってティル自身の独自性を証明した。
「ディ・ベルリナー」というベルリン・フィルのメンバーを中心としたサロン・オーケストラのメンバーとして今までに数度来日しているが、今は自分の音楽に専念するために活動を離れている。それより自分のグループでの活動と、プロデュース業が楽しくて仕方がないといった最近のティルである。
30歳になり、自身のスタジオをもち、夢を一つひとつ叶え、順風満帆のティルの2002年。うれしいことに、待望の初来日公演が6月末に決定した!8人編成の、フルなバンドで今作を中心に、ティルの考えるジャズを展開するというのだから、これは見逃せない。ワールド・カップの準決勝、決勝と重なるけれど、ま、ラッキーにもそのティケットをもっているという方以外には、ティル・ブレナーをお勧めする。生で演奏する彼の姿は、この上なくゴージャズだから。
その上、ティルがサウンドトラックを手がけた、写真家ウィリアム・クラクストンのハッピーなドキュメンタリー映画「JAZZ SEEN/カメラが聴いたジャズ」が3月2日から、渋谷シネ・アミューズでレイトショー公開される。ティルの演奏もいいし、クラクストンが撮影したことでも有名なチェット・ベイカーなど、往年の名ジャズ・ミュージシャンの音楽で綴られる、素敵なジャズも聞き物だ。
この春は、どうもティル・ブレナーが連れて来るという気がする今日この頃だ。
次回のダイアリーは、75歳になられたその写真家、ウィリアム・クラクストンの素顔に迫ってみたい。ご期待下さい。
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KIRIN LAGER CLUB Presents
ティル・ブレナー Japan Tour 2002 "Blue Eyed Soul"
大阪:ON AIR OSAKA
6月29日(土) 開場17:00 開演18:00
東京:アートスフィア
6月30日(日) 開場16:30 開演17:00
ご予約お問い合わせ
(問)カンバセーション 03-5280-9996
(受付: 月?金10:00-19:00)
主催: J-WAVE 協賛: キリンビール株式会社
協力:ユニバーサル ミュージック
ティル・ブレナー
『ブルー・アイド・ソウル』ユニバーサル クラシックス&ジャズ
UCCV-1022
2002/2/21 日本先行発売
(C) 2001 Universal Classics & Jazz, All rights reserved.
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スタジオに遊びに来てくれたティル・ブレナーと。この模様は、3月3日(日)NHK-FM「JAZZ CLUB」にて、オン・エアされます。番組の後半にはパット・メセニーとの会話も放送されますので聴いてくださいね。

オリジナル・サウンドトラック
『JAZZ SEEN/カメラが聴いたジャズ』
ユニバーサル クラシックス&ジャズ
UCCV-1023
(C) 2001 Universal Classics & Jazz, All rights reserved.







