Music Diary

[ 2000.09.22 ]

絶好調、小曽根 真

 素晴らしかった!音楽の喜びに、オーチャードホール中があふれかえった。オーケストラの楽団員も観客と化し、小曽根真のピアノに、引きこまれるように耳を傾けていた。だから、即興たっぷりの3楽章が終わったときには、称讃の声が彼を囲む360度からあがった。
 昨日9月21日、新日本フィルハーモニー交響楽団の今シーズンのオープニングを飾るコンサートで、ジャズ・ピアニストの小曽根 真がゲストに選ばれ、井上道義の華麗なタクトで、ガーシュウィンの「ヘ調のピアノ協奏曲」が演奏されたのだ。その音楽の盛り上げ方、オーケストラをバックにしてもスウィングしてしまう小曽根の今の力量のすごさに、心を揺さぶられ感服したのだ。

 小曽根 真が、去年の春にニューヨークに生活の拠点を移してからのピアノのよさは、特筆に値する。
 「音楽をする時間が多くとれるから」と彼は言ったが、そのために戻ったNY でもあった。髪も金髪にして、"小曽根真トリオ"の新ベーシストにジェームス・ジーナスを迎え、ジャズに限らずクラシックにも果敢に挑戦し、シンガー、伊藤君子のプロデュースも見事に終えと、絶好調をこれでもか!と更新中なのである。
 その新生トリオでの新作「パンドラ」が、また素晴らしい。「驚くほど音楽的なドラム」と小曽根が絶賛するクラレンス・ペンと、そのクラレンスの親友でもありこのトリオへの参加を強く希望した、優しい音色をもったベーシスト、ジェームス・ジーナスとの三位一体で生むグルーヴのあるスウィング。硬軟両用と言おうか、繊細に表現したいと思えばこの3人はどこまでも優しく細やかな音を出し、一度大胆にいくとなったらとても男らしい大きなジャズを演奏することができる。
 まずオープニング曲の「ユー・ネヴァー・テル・ミー・エニシング!」がアルバムの成功を予告してきた。ペンのダイナミックさと繊細さを適材適所で使い分ける美しいドラム、ジーナスのしなやかかつ強靱なベースの上を、小曽根 真のピアノが喜びをもって歌っていく。2曲目など、随所にジーナスのソロがもうけられていて、スタジオでその歌心あるベース・ソロに耳を傾ける、あと2人のうれしそうな顔が見えてくるようだ。
 小曽根のスウィングするミディアム・ナンバーに、琴線に触れるバラードはこのトリオの独壇場で、どの曲も3人の超絶技巧と歌心の共存なくしては演奏しきれない曲ばかりが並ぶ。
 その中でも、心の奥深くに沁みいったのが「パンドラ」という、アルバム・タイトルになったナンバーだった。バークリー音楽院時代に同級生だった当代一のサックス奏者、ブランフォード・マルサリスをゲストに迎え、不思議に耳に残るメロディと広大なイメージを想起させるジャズで、新境地を聴かせた。小曽根が言った。
 「10 分に及んだ『パンドラ』は、すぐに書けた。ブランフォードのソプラノ・サックスを活かして、彼らしい広がりをもたせた曲で、ノータイムでいくという彼のリードに任せて演奏の流れが生まれていった。難しいのは、作曲家としてのぼくが、ブランフォードをインスパイアしたいと願うからだろうね。」

 小曽根真のピアノに何か特別なものがあるとしたら、それは彼がそこに「希望」や「祈り」と呼ばれるものをこめるからではないだろうか。ギリシャ語で「神からすべての賜物を与えられた女」という意味をもつ「パンドラ」は、ギリシャ神話ではゼウスからあらゆる災厄を封じ込めた箱を持たされて人間界にやってきた。これを開けてしまったために、人間の世界には不幸が蔓延したが、急いで閉めたので「希望」だけがパンドラの箱の中に残ったという。
 その残された「希望」を真の希望に変える力が小曽根 真のジャズにはある。その力が、新生トリオによって、また今以上に育つことを信じている私なのである。

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小曽根真
パンドラ
VERVE/Universal
POCJ-1490

夫人で素敵な女優の神野美鈴さんと、3人で。この日は小曽根さんが付き人でした。