Music Diary

[ 2008.09.30 ]

ティル・ブレナーのボッサ・ノヴァ

 ドイツ出身のトランペット奏者&シンガーであるティル・ブレナーの、2年半ぶりの新作が完成しました。『リオ』と名づけられたように、ブラジルはリオと米ロサンゼルスでレコーディングされたこのアルバムは、ティルにとって初めてのボッサ・ノヴァ・アルバムです。

 なぜ、ティルがボッサ・ノヴァ作を作ったのでしょうか。ボッサ生誕50周年という旬もあるでしょう。でも、このアルバムの「出来」が、もっと深いフィロソフィーの介在を伝えてきました。

 非ブラジル人であるティルがボッサと向き合うことで、俯瞰の視野をもち得た『リオ 』。ボッサの魅力が、ティルという広大な音楽的視野をもつフィルターを通すことで、抽出され純度を増したからにちがいありません。

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 まず、多岐にわたる参加者がすごいですね。国境だけではなく、ジャンル、世代の境界線をこえた才能が結集しているのです。「ブラジルの心」と呼ばれているミルトン・ナシメント、大御所セルジオ・メンデスにルシアーナ・ソウザら、MPB(ブラジル・ポピュラー・ミュージック)のスターたちが歌で参加。

 またポピュラー界からはアニー・レノックスや、短期記憶障害をもちながらシンガー・ソングライターとして今年(2008年)世界デビューしたメロディ・ガルドーら。そこにティルがトランペットとフリューゲルホーンで、歌の背景を描いていくのです。

 その風景の美しさ。やわらかく、優しく、でも甘すぎないタッチで描かれるボッサが、五感を通してスピリットに染み込んできます。

 また、2006年に発表した(前オリジナル・アルバム)『オセアーナ』に引き続いて、ラリー・クラインがプロデュースにあたっている点も、『リオ』を解く鍵になるでしょう。

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 ベルリンに戻ったティル・ブレナーに、本作について聞きました。

 「1999年にユニバーサルへの移籍作『love』で〈ブラジル〉を収録しているように、ボッサのサウンドと雰囲気はずっと好きだった。でも、アルバムを作りたいと熱望していたかというと、それもちがう。ラリー・クラインにしても、似た気分だったと思う。でもぼくとなら、ボッサのアルバムを作ってみたいと、彼が言ってくれたんだ。ちょうど2007年にラリーがルシアーナ・ソウザと結婚したことも、このプロジェクトを進める上で大きな力になった。ぼくたちは、まず eメールで取り上げたい曲を選考していった。その過程で曲を書いてもみたけれど、今までにある曲から選ぶことに決めた。と同時に、よく取り上げられる有名曲はなるべくはぶこうということで意見が一致した」

 ティルは、このボッサ作で、「してはならない」ルールを3ヶ条かかげ、それを遵守したそうです。それは、次の3点でした。

 1. ブラジル人ばかりを共演者に選ばずに、広く世界の才能と共演すること。
 2. ボッサの有名曲集にはしないこと。
 3. よくあるクリシェな作風にはしないこと。

 ティルが続けて話してくれました。

 「周囲が無理だろうというアーティストにも、声をかけてみた。すると意外なほどすんなりと、希望していた人たちが快諾してくれたんだ。ボッサの創成期の立役者の一人であるウォルター・サントスを父親にもつルシアーナは、ブラジルのミュージシャンなら誰でも知っていたからね。そのことに力を得て、制作が進んでいった。ヨーロッパ、ブラジル、アメリカと多様なバックグラウンドをもつミュージシャンが参加してくれることで、ボッサ・ノヴァへの敬愛は保ちながら、『リオ』にワールドワイドな視点をもりこむことができた。今活躍している世界の才能たちが、ボッサを寿いでいる。それが、このアルバムをユニークなものにしたと自負している」

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 参加アーティストを、ティルとのつながりを中心に紹介しておきましょう。

 ミルトン・ナシメントは、以前からティルが敬愛していたシンガー・ソングライター。数々の名曲、名唱を生んできた希有な才能ですが、ティルとは今回が初共演になりました。

 「ミルトンの歌には心がある。その表現の深さは、圧倒的だ。フレージングも素晴らしく、彼の歌には心を動かされずにはいられない」

 セルジオ・メンデスとは、東京で出逢ったのです。2002年の来日時に、日本のユニバーサルの担当者である斎藤さんに連れられて行ったブルーノート東京で知り会い、そのときの縁がもとでセルジオの新作『モーニング・イン・リオ (原題: Encanto)』に、参加依頼を受けました。そして今回は、そのお返しとしてセルジオの参加が決まったのです。

 ヴァネッサ・ダ・マタは、ブラジルの都市部で絶大な人気を誇る女性シンガー・ソングライターです。洗練された感覚で、「新時代のガル・コスタ、マリーザ・モンチ」と評されています。今作への参加でも、たくさんの曲をもちより、たいへん協力的だったそう。

 ヨーロッパからはアニー・レノックス!

 「彼女はもともとボッサが大好きで、そのことを知っていたので依頼した。彼女の声が、ボッサに合うことには驚嘆する。ミルトンとのデュエットは、異質な声の共演だけれど、それがまた素晴らしい結果を生むことになった」

 アメリカ勢に移ると、カート・エリングは以前からティルが好きなシンガーでした。

 「でも、ここでのカートはいつもとちがい、よりソフトでしっとりとした歌声を聴かせてくれる。しかもポルトガル語で。このムードがだせるのは、カートだけだろう」

 「新進気鋭のシンガー・ソングライターとして注目を集めているメロディ・ガルドーは、ラリー・クラインから2年前に知らされ、共演の機会を待っていた。音楽界の輝ける新星だね。19歳のときにあった交通事故のため、記憶障害や聴覚、視覚障害をもっての活動だが、実際に会うとそのヴァイタリティに驚いた。人としてもエネルギーに溢れ、アクティヴなんだ。心に残る、すばらしい歌声持ち主だ。この『リオ』にも参加してくれ、うれしい限り」

 メロディの現在制作中の次作は、ラリー・クラインがプロデュースしています。と、ティルとラリーの広い人脈と、気負わず、でも率直に依頼をした熱意がこの参加メンバーを結集させたと、ティルが微笑みました。

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 21世紀のボッサ・ノヴァが『リオ』から響いてきます。ありきたりではない楽曲が、ヨーロッパのサウダージをふくんで、やわらかく頬をなでるのです。その風の爽やかさに目を細め、ティルのボッサ・アルバムを聴いています。

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ティル・ブレナー
『リオ〜ボサ・ノヴァの誘惑』

ユニバーサル ミュージック株式会社
UCCV-1112
2008年9月17日発売
※ 権利者の許可を得ずに、複製することを禁じます。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

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