Music Diary

[ 2000.10.15 ]

サルティンバンコの夢幻

 やはり今回も「シルク・ドゥ・ソレイユ」のサーカスを見た夜は、いつもと違う夢を見た。夢幻の世界に遊んだそのステージの続きを見るような、色彩に溢れた神秘的な夢だった。
 カナダのカンパニーであるシルク・ドゥ・ソレイユは、今、便宜上サーカスと呼んでみたけれど、動物の芸はなく、オートバイの球形ぐるぐる回りもない、大道芸と器械体操系の究極を見せる、アーティスティックで大人も楽しめるショーなのだ。ストーリーがあって、音楽、衣装、照明、振り付けが一体となって生み出される、粋で壮大なエンターテインメント。今回が3回目の来日公演になるけれど、92年の初来日から私はやみつきで、いつ行っても夢の世界に確実に連れて行ってくれる、世界一のカンパニーだと思っている。
 まず他との違いを書いてみると、シルク・ドゥ・ソレイユでは舞台が他のサーカスとちがって暗い。そこに考え抜かれた照明が当たることで、観客は異界へと容易にワープする。豊かな色彩と、美しく奇妙な衣装は、言ってみれば "明るいフェリーニ"。音楽は生バンドが毎回出演して、フュージョンっぽい演奏がまたとても上手い上に、彼らミュージシャンもクラウン(道化師)の役を演じる。空中ブランコも、ただでさえワクワク・ドキドキなのに、会場が薄暗く、物語性があって更に盛り上がるよう演出されているから、こちらの胸は早鐘のように鳴る。だって、命綱がついていないこともあるし、いつだって落下用のネットはないのだから

 今回の出し物は「サルティンバンコ」という、彼らお得意のレパートリー。少年の冒険が軸になっていて、そこにコラージュのように様々な大技(おおわざ)と、クラウンがとる細やかな笑いがちりばめられていた。私の今回一のお気に入りは、空中ブランコ+バンジー・ジャンプの至芸だった。ちょっと説明してみます。鳥のように見える白い衣装に身を包んだ男女4人が神秘的なサウンドにいざなわれて登場する。会場のテントは、そう広くはなく親密な空間を作っているけれど、天井だけがとてつもなく高い。その理由が、このパートで解った。天井高くにしつらえられた、ブランコにつかまり揺れる彼ら。その手が、いきなりバーを離れ、落下を始めた。あぁ、よかった。バンジーのゴムを背中に付けているから出来る芸。落下しながら、何度も回転し、それはまるで空中でイルカが遊んでいるようで、とても綺麗だ。あ、でも床に叩きつけられる!と息を呑んだ瞬間に、4人はバンジーの反動を使ってまた天高くに舞い上がっていった。4人はそれからもバーからバーへ、天から地へと飛び交った。私は天使のような彼らの舞姿を目で追いながら、彼らが描く弧の美しさにため息をついた。

 ご一緒に公演に行った小幡京子先生は、実は私が小学校でダンスを教えていただいた体育・リトミックの先生で、いつまでも綺麗でスタイルがよくて、今でも現役のダンサーでいらして、私の自慢。その京子先生の「一番」は、チャイニーズ・バーだった。チャイニーズ・バーでは、4本の棒がステージに立てられ、それを使って世界各国から集まった16人の団員が、器械体操のウルトラDを見せ続けるという出し物。例えば1本の棒に等間隔で4人が斜め倒立をし、それx 4 本で、16人が一斉に同じフォームを作る。かと思えば、次の動きではある団員が棒から次の棒へと飛び移って足で棒をはさんで倒立する。集団で生んでいく空間の見事さ、呼吸の合いかたに魅了されると京子先生。プッチ柄みたいなタイツの衣装も、音楽もその動きにマッチしていて、退場するときの道具の片づけまでがショーの一部になっているのだから凄い。どこまでも夢を見せてあげよう、夢幻の世界がとぎれないようにというシルク・ドゥ・ソレイユの心意気に、私も感服した 。
 マッチョな双子(たぶん)の男の力業。子供をはさんだ3人の家族の、柔軟な体の動き。可愛いジャグラーは、7つものボールでお手玉をし、クラウンは客席から一人の男性を舞台に上げて、彼を即興のパントマイムにまきこんで笑いと喝采をとる。見るからに不吉な「ラ・モルト」(死の意味)という登場人物もいて、これがまた人さらいがいそうなサーカスの闇を象徴していて、悪くない。光と闇、都市の様々な人間模様を浮き彫りにする演出で、それはやはり生きることへの讃歌へとつながっていった。
 きゃっ!と声を上げ、コンタクトが乾いちゃうほど目を見張り、世の中の憂さをすべて忘れて見入る数時間は、遠いところに旅をするより、はるかに距離のある場所へと連れて行ってくれた。それは内面の子供と出逢う、懐かしい場所だ。
 今夜もあの夢の続きを、見られないかしら。そう願って、今夜はベッドに入ろうと思っている。

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インターネットには画像を貸し出せないということで、スタッフの方が撮ってくれた会場前でのショット

小幡京子先生と、公演終了後に、売店付近で。
2人の瞳に、☆が飛んでいるのが、面白かった何よりの証拠。

引いて見ると、テントの急なカーブが少し解りますね

◆「サルティンバンコ」公式ホームページ http://www.fujitv.co.jp/bigtop/top.html
公演スケジュール&チケット情報は、こちらをご覧ください。

明日16日から、韓国に様々な音楽を聴きに行くという、出張に行ってきます。初めての韓国、それもソウルではなく全州という民俗音楽発祥の地へ行くんです。日本の音楽の一つのルーツである彼の地に行けば、きっと私の DNAが喜び、耳をそばだてるはず。帰ったら、必ず報告しますから、またこのページに寄ってみて下さいね。では、行ってきま?す!