Music Diary
[ 2010.10.07 ]
マルサリス家のジャズへの献身
2009年6月、エリス・マルサリス,Jr.と5人の息子が一堂に会するコンサートが、ワシントンD.C.にあるケネディ・センターで開催されました。
これは、エリスが《デューク・エリントン・ジャズ・フェスティヴァル》から"ライフタイム・アチーヴメント・アワード"という彼の偉業を讃える賞を受けたことを祝 う、スペシャルなコンサートでした。
その模様をライヴ感たっぷりに収めたのが、このファミリーの新作『ミュージック・リディームス』です。
なお、このイヴェントは、受賞祝いばかりでなく、来春完成予定の『ザ・エリス・マルサリス・センター・フォー・ミュージック』の前祝いと資金集めを兼ねて開かれたのでした。
家長エリス(1934.11.14生)のピアノを核に、長男ブランフォード(ts,1960.8.26生)、次男ウィントン(tp,1961.10.18生)、四男デルフィーヨ(tb,1965.7.28生)、末っ子ジェイソン(ds,1977.3.4生)はもちろん、三男で唯一音楽を生業にしていないエンジニアのエリス三世も詩の創作と朗読で参加。
ちなみに、ジェイソンはドラムスのほかに驚異の口笛とヴィブラフォンの演奏も聴かせています。
その他のメンバーは、ベースがブランフォード・マルサリス・カルテットの一員であるエリック・レヴィス、ジェイソンが他楽器を担当している時のドラムスはハーリン・ライリー。
また、エリスの教え子であるシンガー/俳優のハリー・コニック,Jr.がピアノでゲ
スト参加しています。
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『ザ・エリス・マルサリス・センター・フォー・ミュージック』、通称『ザ・センター』は2005年8月、米国南部を襲ったハリケーン"カテリーナ"がきっかけで作られることになった教育施設です。
エリスと妻ドロレスの生まれ故郷であり、5人の息子を育てたルイジアナ州ニューオーリンズ市では、カテリーナのために運河の堤防が決壊し、東部が水没。被災前に約46万人を数えた人口は、19万人弱と6割ほど減りました。
ふるさとに帰りたくても、経済的に不可能な人々が多かったからです。
エリス夫妻も被災直後は他州の友人宅に非難したものの、11月には帰郷し、近隣の人々と励ましあいました。
ブランフォードは、今作にも参加しているハリー・コニック,Jr.とともに『ハビタット(住宅)・フォー・ヒューマニティ』の名誉会長に就任し、『ミュージシャンズ・ヴィレッジ(主に芸術に携わる人々のた
めの住宅)』建設のために尽力、それは今も続いています。
そして、その中心に『ザ・エリス・マルサリス・センター・フォー・ミュージック』を構え、音楽復興の旗印にしたいと考えたのです。
当時、その壮大な計画を聞いても、イメージするのさ え難しかったものですが、今や80軒を数えるコミュニティを形成しています。
『ザ・センター』について、ブランフォードが次のように語りました。
「そこは住人が交流する場所になり、音楽教育が行われ、そのためのプログラムも父が立て始めているようだ。300人収容のホールもでき、レコーディングもできる。ニューオーリンズの音楽の回復への、さらなる大きな一歩になると確信している」
建物やヴィレッジの様子は、こちらでご覧ください。
今作の『音楽の回復』という意味のタイトルは、こうした経緯からつけられたのです。
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続けてブランフォードに、エリス・マルサリスのピアニスト、作曲家、音楽教育者、父親としての各側面を語ってもらいましょう。
「ピアニストとして父はグレイト! ニューオーリンズからほとんど出たことがないのに、早くからモダン・ジャズを指向していた点も評価されている。
作曲家としても言えることだけれど、父のもつシンプリシティは、ニューオーリンズが寄与している。
つまり、雑多なニューヨークなどにいると、勢い音楽にこもる情報量も多くなる。音楽というより、それはインフォメーションだろうと感じることが多々ある。その弊害を逃れ、生身の人間が作ったすばらしさがある。
教師としてもグレイト!常にクリティカルでね、今の自分に満足してはいけないと言われ続けた。人生とは何か、音楽とは何かも教えてくれた最高の先生だね。
父親としては、子供が間違いを犯したときに助けない。過保護にしない。一貫して、自分で責任をとれという教育だった」
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アルバムの内容は、ジャズの歴史を凝縮したようなものですが、冒頭のチャーリー・パーカーの名曲〈ドナ・リー〉を、ウィントンのトランペットと、ジェイソンの口笛がユニゾンで演奏するのにはびっくり! もぅ、口笛の概念を超えてます!
〈モンキー・パズル〉は、兄弟が子供の頃よく家族で演奏した曲だそう。
ニューオーリンズ出身のジェームス・ブラックが作曲したナンバーで、近年マルサリス・ファミリーがとりあげることで、彼に初めてのスポットライトが当たっています。
〈シンドローム〉は、パパ・エリスの作曲。メロディの美しさと、ブランフォード(ts)、ウィントン(tp)、デルフィーヨ(tb)の3管が生み出すハーモニーのふくよかさに、ため息が出ます。ジェイソンはここでやっとドラムの前に座り、絶妙なドライヴを聴かせるのです。
ラストは〈ザ・セカンド・ライン〉。ニューオーリンズ伝統の葬送曲であったセカ ンド・ラインの楽しさは、コンサートの最後にぴったり。
観客の大歓声は、セカンド・ラインを先導する傘をもった男の役をハリー・コニック,Jr.がつとめているからです。音から伝わるマーチングの楽しさが、聴き手を観客の一員にしてくれます。
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マルサリス・ファミリーは、アメリカでは『ジャズ界のファースト・ファミリー』と呼び称されていますが、エリスがそのことばを心地良く聞いているとは思いません。
20年ほど前、インタヴューをしているとき、わたしが「息子さんたちがスターになってすばらしいですね」と言うと、エリスはやさしく、でもきっぱりと、次のように言いました。
「ジャズにスターは必要ないと、わたしは思っているんですよ。
常に音楽に献身するという姿勢で臨まなければ、いいジャズは生まれない。
スターになりたければ、ジャズはやらないことです。息子たちにもそう教えてきました」
エリスのこの信念がなければ、4人の凄腕ミュージシャンも生まれなかったでしょうし、
このアルバムを満たす、各人の個性の強い輝きと幸福なアンサンブルもなかったでしょう。
つい先日、もうひとつ受賞の知らせが届きました。2011年NEAジャズ・マスターズ・アワードを、マルサリス・ファミリーが受賞するのだそうです。
アメリカ・ジャズ界最高の栄誉といわれるこの賞を、ファミリーとして受賞するのだから、すばらしいですね。家族での受賞は、彼らが最初で最後になるでしょう。
それを控えめではあっても、心から喜び、誇りに思うエリス・マルサリスの笑顔が見えます。
音楽の回復、それこそが父エリスとブランフォードが設立したマルサリス・ミュージックのモットーです。
"ミュージック・リディームス"という概念は、ニューオーリンズに誕生し、世界各地に拡散、花を咲かせているジャズの物語のなかで、ひとつの太い根幹になると確信しています。







