Music Diary
[ 2009.06.23 ]
Yasuko Hirata / 平田康子のソングス
平田康子の新作が、すてきなジャケットをまとって、届けられました。
彼女にとって4作目になる今作には、『ソングス・フォー・ユー』というタイトルがつけられていました。康子さんが青春時代に愛し、今もなお歌っている楽曲の数々が収められた本作。厳寒のニューヨークに飛び、録音されたこのアルバムには、彼女の熱い想いがこめられていたのです。
歌ってきたその生涯に感謝するように、寿ぐように、歌う康子さん。
その歌に、今までにはない色彩を感じ、彼女が実りの時代を迎えたことを確信しました。
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彼女とは、洗足学園音楽大学ジャズ・コースの同僚として知り合いました。たいへん気配りのある女性で、いつも周りの雰囲気を明るくしてくれる、得難い人なのです。
でも、この作品における表現者としての彼女は、しなやかな強さをもち、と同時に人生の痛みを知る、多面的なシンガーです。
その平田康子の半生を、急ぎ足でたどってみましょう。福岡県に生まれた彼女は、まずピアノを、そして16歳からクラシックの声楽を学びました。
関西地方の音楽大学受験を目指し、単身関西の高校に転校し、準備にいそしんだのですが、父親が他界し、進路の変更を余儀なくされ、地元の大谷短期大学幼児教育学科に進学したのです。
卒業後は、幼稚園勤務についたものの、歌への想いを抑えることができず、シンガーとしての活動を開始します。ジャズに傾倒し、姉と始めた店で、弾き語りで歌うようになったのも、自然の流れだったのかもしれません。。人気があったのですが、きちんと音楽/ジャズを学びたいという欲求に突き動かされて、バークリー音楽院に留学すべくアメリカに渡りました。
こういう、マジメなところが、康子さんならではなのです。
優秀な成績を収め卒業し、そのボストン時代に、ハーバード大学のエクステンション・スクールで演劇も学んだそうです。
1990年、帰国後は東京を拠点に、ジャズ・クラブなどで活動し、94年にアルバム・デビュー。2001年からは音楽教育にも携わり、尚美音楽大学を経て、03年から現在まで、洗足学園音楽大学のジャズ・ヴォーカル科で教鞭をとっておられます。
この一文を書くことで、わたしも初めて知ったのですが、康子さんの明るさは、人生の不条理や悲しみを乗り越えて、身につけたものだったのですね。
幸せなだけの人生など存在しませんが、彼女の今までの苦労や努力があっての、本作の輝きなのだと感じました。
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レコーディングは、09年1月、極寒のニューヨークで敢行されました。すべての行程を終え、日本に戻った康子さんが、本作について次のように語りました。
「今回のレコーディングは、わたしにとって夢のような時間でした。セシル・マクビーやソニー・スティットとの仕事で知られる、デヴィッド・バークマン(p)にプロデュースとアレンジを担当していただき、すばらしいミュージシャンに恵まれての録音でした。
彼らのハートフルな演奏に、歌うわたしも心が震えました。ソウルメディアの稲垣次郎さんにコーディネイトしていただいたことが功を奏し、大野俊三さん(tp)に参加していただいたばかりか、メンバーの選考もお願いすることができました。そのおかげで、名手たちがわたしのために集まってくださったのです。
また2008年のグラミー賞を、ミキシング、マスタリング部門の2部門で受賞したフィル・マグノッティが、美しい音の重なりを生んでくれました。関わってくださった、すべての方に感謝したい気持ちでいっぱいです。そして今までジャズの世界で生きてきた、その幸せを、かみしめています」
上記以外の参加メンバーでは、ディー・ディー・ブリッジウォーターの音楽監督でもあるアイラ・コールマンの歌心あるベース、クラレンス・ペンのミュージカルなドラムスと、すばらしいミュージシャンが参加しています。
彼らの名サポートという翼を得て、彼女は5曲のスタンダートと5曲の名ポップスを歌っています。
冒頭と最終曲が、レオン・ラッセルの作詞・作曲。
スタンダートでも、彼女はバークリーで最初のレッスンで取りあげた曲、〈エンジェル・アイズ〉といった、愛唱歌を選んでいます。同曲を歌い終えたときに、アイラ・コールマンから「ナイス!」という声がかかったそうです。前半の哀感と、後半の捨て台詞の対照が面白いので、アイラと同じ声をかけました。
〈マイ・フーリッシュハート〉はアップ・テンポに仕上げ、〈ラウンド・ミッドナイト〉では、プロデューサーの助言もあり、レイドバックした歌い方を心がけたといいます。
〈シャドウ・オブ・ユア・スマイル〉での、明るさが底流にある歌唱。
平田康子というシンガーは、この『ソングス・フォー・ユー』で、新たな地平に立ったのではないでしょうか。ベテランに失礼ですが、「これからが楽しみ」と、思っているのです。






