Music Diary

[ 2009.09.05 ]

上原ひろみ solo @TOKYO JAZZ

ジャズにおけるソロ・ピアノのフル・アルバムは、ハードルが高い。

個性を表出しつつクオリティも秀逸というソロ・ピアノ作を作れる人は、ブラッド・メルドーをのぞけば国籍不問で年齢が高く、ソロの場合「ピアノ力」だけではない、人間としての「物語る力」がどうしても必要なのだと感じてきた。

だから、上原ひろみが初めてソロ作を作ると聞いたときも、手放しでは喜べなかった。
でも、『プレイス・トゥ・ビー』を聴き、それが杞憂だと知った。

そして今夜、TOKYO JAZZ 2009での公演を聴き、彼女はソロで充分語れるピアニストなのだと知った。

アルバム完成後に、ひろみちゃんが言った。
「ずっとピアノに向かってきて、バンドを組むまではほとんど一人で弾いてきたわけです。
一人で弾くことが、ある意味本来の姿、自然なことなので、そこにハードルがあるとは思いません。
わたしはずっとソロ・アルバムを作りたくって、今まで待ってきました。

スタンリー・クラークさんのアルバムに参加する前から、わたしの頭の中では、このソロ作のことでいっぱいでした。

内容は、ツアーで訪れた世界各地の思い出を曲にしたものです。
ほんとうに20歳代は、ツアーに明け暮れましたからw」
     ◆      ◆      ◆
TOKYO JAZZ 2009では、大舞台にひろみちゃんが一人。
でも、さみしい印象は一切なかった。
大輪の花なら、一輪ざしに挿しても、華やかなのと同じだ。

彼女ほど、集中した時の表情がフォトジェニックなピアニストもいないから、
舞台 & 両サイドのスクリーンで見るアップの映像という、
遠近両用の視覚的効果も功を奏した。

会場中が、彼女と一緒に口を開け、ほほえみ、ピアノに集中した。

LIVEでの圧巻は、ラスベガス組曲〈VIVA! Vegas〉だった。
街のさまざまな表情を描写し、ギャンブラーの興奮までもが音楽になる。

この構成力こそ、彼女がデビュー当時から図抜けて優れている点なのだが、
現在は「構成しています」という無理強いなところもなくなり、
音楽の豊かな自然な流れのなかに、ふと気がつけば、すばらしい構築力がひそんでいた、と気づく最良のパターンになってきた。

彼女が弾き終わると、アンコールの声が起こり、
それに応え、新作からのタイトル曲〈プレイス・トゥ・ビー〉が叙情をもって演奏された。
すると、多くの観客がスタンディング・オベイションで彼女をおくった。

その多くは若者たち。
上原がシェアした巨大な「元気」に対する、返礼のようだった。
     ◆      ◆      ◆
アルバムに、もう少しふれておこう。

13曲中11曲をオリジナルで臨み、日本向けボーナス・トラックでは、TOKYO JAZZで9月4日に共演した矢野顕子のボーカルを迎えて、上原が日本語による歌詞を初めて書くという挑戦をした。

そこでは「あなたがいるからがんばれる。ありがとう、ほんとにありがとう」という、人生の伴侶を得た彼女の(あるいは故郷、友人への)感謝が、等身大の歌詞で歌われている。
その心根が無垢でかわいい。
(2人は同じヤマハ所属なので、デュオ・アルバムが作られるという)

ソロ・ピアノでの12曲は、すばらしい。
正確な運指に驚嘆しているうちに、壮大な展開をみせる〈BQE〉。
いにしえのジャズの香りをもつ〈シュー・アラ・クレーム〉。
ロマンティックな〈シシリアン・ブルー〉は曲中でも景色を変え、彼女の物語る力によって、聴き手はシシリア島を抱く海の蒼のグラデーションを見ることができる。

でも、どんなによくできた「複製音楽(CD など)」より、「LIVE 」の方が、どれほど人の心を揺さぶるか、その証左を目の当たりにしたのが今夜のコンサートでもあった。

それは、まったく異次元の体験なのだ。

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PLACE TO BE UCCT9012GB.jpg上原ひろみ、初のソロ・ピアノ作『Place To Be』(ユニバーサル クラシックス&ジャズ)

上原ひろみ_2009_A_small.jpg30歳になったばかりのひろみちゃん、ソロ作は20歳代の記念とも語った。

DSC00088.JPG2009年のお正月に。彼女のすばらしき頑張りに、抱きつく。