Music Diary
[ 2006.08.31 ]
夏休みに聴きたい音楽Vol.4 〜生誕80年マイルス・トリビュート編〜 ロン・カーター、ジョー・ロバーノ
わ〜ん、もうすぐ夏休みが終わっちゃう。
ついさっき始まったばかりなのに、どーしたっていうの?これが、this weekのわたしの心の声。地球温暖化とともに、地球自転高速化が起こっているのではないでしょうか?
わ〜い、と、わ〜ん。一字違いなのに、天国と地獄。
覚えてますか?8月末に、涙目でやった宿題。あのハメにまた陥ろうとは、思わなんだ。
音大で夏休み前に、学生たちに試験をする替わりに、課題を出したんです。「好きなミュージシャンのCD/音楽について書く」というレポート。学生一人ひとりの嗜好や、考え方を知りたかった。そう話すと、ある先生が言いました。「試験の方がお楽ですよ」。その講師の顔がアップになって迫ってくる。
洗足学園音大のわたしの3クラス の学生たちは、熱心なのでね。書いてきた、書いてきた。想いのたけを。その総量たるや、膨大!
活字中毒のわたしにとってさえ、大変なの。その学生の気持ちになって読むのって。そ、それで何が言いたいかっていうと、わ?ん、読み終わってないんです、まだ。読むだけじゃなくて、採点もするんですよ。四苦八苦。「宿題」がこんなに残ってるなんて、学生たちには言えないわ。
それに学生たちが言っていたそうだ。
「ヨウ先生が夏休みにハジケテルらしいぜ」「それも、イケメンとよ」「大丈夫か、あいつ」「9月にはシャキッと大学に出てくるといいけど」
その声に応え、今日はマジメ風を装ってお送りします。マイルス・デイヴィスに捧げられた2アルバムについて。
今年はマイルス・デイビス生誕80周年にあたります。生きていればの話ですが。あ、わかってますか。
それにしてはトリビュート作がそうそう出ていないのは、マイルスの音楽/レパートリーを奏するのはそれが例え模倣であっても難しいから。そのうえ、クリエイディブなものを目指した場合、ハードルなんて高さじゃない、高山のような壁になって帝王マイルスが立ちはだかるからです。
でも、ロン・カーター(b)ならできるんですね。その証左が、彼の新作『ディア・マイルス』だ。さすが1963年4月から68年5月までマイルス・グループに在籍し、60年代のウエイン・ショーター(ts,ss)〜ハービー・ハンコック(p)〜ロン〜トニー・ウイリアムス(ds)を擁したクインテットのメンバーだけのことはあります。
マイルスはこのメンバーを愛し、創造し、ジャズをリードしたのだった。
こんなことを、思い出しました。マイルスが亡くなった翌年、92年のライブ・アンダー・ザ・スカイでV.S.0.P.が再結成されることになったときのこと。わたしは取材で上記のメンバーにマイルスの思い出を聞いてまわるという、切なくも光栄な仕事に携わりました。各メンバーが哀しみをこめて、でも言葉をつくしてマイルスとの思い出を語ってくれたのに反し、ロンだけが、マイルスの話はまだできないと言ったのです。
彼はこう言いました。「マイルスのことは、まだ自分のなかで整理できていないからとても話せない。葬儀にも参列しなかったくらいなんだ。自分の父親を亡くしたときもそうだったが。マイルスの死後、メモリアルと銘打ったコンサートがいくつもあったけれど、これも断ってきた。V.S.0.P.だけが例外なんだ。そして私のマイルスへの回答は、10年、いや20年くらい待ってもらうことになりそうだ」
わたしは新作を聴いて、思いましたね。この『ディア・マイルス』が、ロン・カーターの回答なのだと。そして冷静な外見に反し、情が深いロンに、約束を果たしたことへの敬愛のことばを伝えたい。
それほどにこの作品には、気合いと魂が入っていました。たとえば〈天国への7つの階段〉でのロンのベースです。軽快なアップの足取りで、でも重量感を兼ね備えて天国への階段をあがってみせる。レギュラー・ピアニストのステファン・スコットに、同曲でパーカッションで大きくフィーチャーされるロジャー・スクイーテロ。ドラムはペイトン・クロスリーで、ピアノ・トリオにパーカッションが加わった編成です。
3曲目は、ロンも参加した『マイ・ファニー・バレンタイン』のタイトル曲ですが、マイルス・ファンには56年『クッキン』での初演が、評価が高い曲ですね。そこでのロンほかメンバーのきめの細かい表現には、いまだにマイルス喪失の涙がにじんでいるよう。
また〈バグス・グルーヴ〉はミルト・ジャクソンの作曲ですが、このレイジーないい雰囲気は、大人ならではの味。一転して大人の初々しさ?が楽しめる〈いつか王子様が〉。名曲に、またすてきなテイクが誕生しました。
マイルスが得意にしていたバラードでは、〈星影のステラ〉は涙たっぷりに、〈バイバイ・ブラックバード〉はいくぶん楽しげに奏されています。
ロン・カーターのように、時のすぎるままに(M-8)真剣に生きていれば、別れの口ぶりにも肯定的なものが加味されるということでしょうか。〈バイバイ・ブラックバード〉の明るい解釈に救われる想いなのは、決してわたしだけではないでしょう。
時は過ぎ、でも音楽は残るのです。
さて、マイルスに捧げたアルバム、もう1枚はジョー・ロバーノ(ts,acl)が放ってきました。
意欲作にして、大作。ジョー・ロバーノが、マイルス・デイビスの『クールの誕生』へのひとつの回答を創作したのですから。
「先人の偉業をいかすためには、その音楽を今の演奏家がプレイし続けることが最も有効だ」というロバーノの考えに基づき、再生したものです。
マイルスがギル・エヴァンスと生んだ名作を、『クールの誕生』に参加しシーンに登場したガンサー・シュラーとともに、ここで再生したのです。
ロバーノが真価を発揮し始めたのは、95年にシュラーと組んだ『ラッシュ・アワー』からだと言っていいと思います。それから10年余、『クールの誕生』から約半世紀。その組曲を中心にすえて、ロバーノ作曲の5パートからなる組曲〈ストリーム・オブ・エキスプレッション〉と、2曲のオリジナルではさんだプログラム。
全編から、脂の乗りきったロバーノの力量と、ラージ・アンサンブルにかける熱き想いが伝わってきます。
まず〈「クールの誕生」組曲〉ですが、オリジナルよりエレガントな演奏もありますけれど、全体的にはシュラーここに在りのグルーヴと楽器使いがスゴイんです。9管編成が実に美しくて、うっとりです。
また〈「クールの誕生」組曲〉以外でも、〈ブルー・シケッチズ〉は、マイルスの〈ソー・ホワット〉と、コルトレーンの〈インプレッションズ〉がもつハーモニーを再考して生んだというオリジナルで、雄大。めずらしい楽器を使ったラスト曲まで、アルバムの隅から隅までロバーノの努力がつまっています。
この新作は、きっとジョー・ロバーノの代表作になることでしょう。
書いているうちに、わたしも、どうにか音楽ジャーナリスト・モードに戻ってきました。さぁ、後は「宿題」をやるばかり。 耳を澄ますと、庭から、虫の音が聞こえてきます。こんなに残暑が厳しいのに、どこからか秋が近づいてきているんですね。皆さんも、どうか残暑と宿題に負けず、9月をお迎えてくださいね。
I wish you GOOD luck!











